奇厳城 アルセーヌ・ルパン - やくしまるえつこ.mp3
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[00:00.000]ボートルレは一通の手紙を受けとった。まだ傷が治ったばかりで幾分顔色のよくない少年の顔は、その手紙を読んでいくうちにさっと蒼くなった。彼はしばらく眼をつぶって考えていたが、やがて何事かを決心したようであった。[00:27.766]その夜少年は、一人の紳士に案内されて一つの部屋へ入った。紳士は一言も口をきかず重々しい態度で室内の電灯をみんな点けた。室内にはたちまち明るい光がいっぱいに流れた。この時二人は始めて眼と眼を見合せた。[00:59.233]その眼光の鋭さ、らんらんと燃ゆるような四つの眼は、お互の胸の底まで見抜こうとする物凄いものであった。[01:11.307]その紳士の顔付かおつきは逞しく、長い髪の毛は茶褐色で、髯は左右に分れていた。身装ちょうど英国の僧侶のように黒い物ずくめで、見るからに自然と頭の下るような、いかめしさと重々しさとをそなえていた。やがてその紳士は口を開いた。[01:41.319]「ボートルレ君、我輩はまず君に、君が我輩の手紙を見て気持よく逢ってくれたことに、御礼を申し上げなければならない。」[01:54.840]「そして、あなたが?……」とボートルレはいった。紳士はじっとボートルレを見ながら静かにいった。[02:07.681]「そう、我輩です、アルセーヌ・ルパンです。ボートルレ君。」[02:16.303]アルセーヌ・ルパン!おお彼巨人アルセーヌ・ルパンは再び姿を現わした。かの僧院の陰惨な土窖の中に苦しみ悶え、ついに無惨な死を報ぜられたアルセーヌ・ルパン!彼はやはり生きていたのであった。しかも今見る彼ルパンの元気溢れていることよ!彼はボートルレ少年に逢い、何をしようとするのであろうか。[02:49.975]「我輩は……」とルパンは笑いながらいった。[02:56.931]「我輩はとにかく出来る限り活動するのです。そのためには種々な手段もとらなければならない。我輩はもう君が、自分の身の危険には構われないということを知りました。残るところは君のお父さんです。……君がまたたいへんお父さん思いであるということを知っているので、だから我輩は最後の手段をとろうとするのです。」[03:31.142]「だから僕、ここへ来たんです。」とボートルレは微笑んだ、「手紙の中にある嚇し文句も、私のことなら何でもないのですが、それが私の父のことなんですからね。」[03:51.892]「まあ、椅子へ掛けましょう。」とルパンはいった。[03:59.165]「とにかくその前にボートルレ君、あの判事の書記が君に乱暴したことを僕は謝らなければならない。」[04:09.500]「いや、実際あれには僕も少し驚きました。だってルパンのやり方ではないんですもの。」[04:18.776]「そう、実際、あれは我輩の少しも知らないことだった。あの部下はまだ新米なので、我輩の命令に背いて勝手にしてしまったことなんだ。我輩はあの部下を厳しく罰しておいた。君の蒼い顔を見てはいっそうお気の毒です。勘弁してくれますか。」[04:45.594]「あなたは今日僕をこんなに信用して下すったんだから、それでもうあの書記のことは忘れましょう。だって僕がそうしようと思えば警官を連れてきて、あなたを捕縛することも出来たんですもの。」とボートルレは笑いながらいった。[05:07.233]ボートルレは絶えず美しい無邪気な微笑を浮べ、親しげな、それでいて丁寧な態度をとっている。少しもその態度には偽りがない。[05:22.280]ルパンはこの無邪気な愛くるしい少年に対して、少からず困っているようであった。彼は自分のいいたいことを、どういう風にいい出そうかと迷っているようであった。[05:40.121]その時玄関の呼鈴がなった。ルパンは急いで立っていった。[05:48.355]彼れは一通の手紙を持って戻ってきた。[05:53.359]「ちょっと失礼。」といいながら手紙の封を切った。中には一本の電報が入っていた。彼はそれを読んだ。とみるみるその様子は変ってきた。その顔色は輝き出した。彼はすっくと立った。彼はもはや、常に争い闘い、何物をも支配しようとする巨人、人類の王であった。[06:29.091]彼はその電報を卓子の上に披げて、拳を固めてどんと卓子を打って叫んだ。[06:38.511]「さあ、今じゃあ、ボートルレ君、君と我輩との相討だ。」[06:47.114]
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